え〜、寄席ファンの方はご存じだと思いますが、大の月つまり、お正月、三月、五月、七月、八月、十月、十二月には３１日があります。そんなことは寄席ファンでなくとも知っている…と言われそうですが、この３１日は寄席にとって特別な日です。常打の寄席では上席、中席、下席と１０日間ずつ興行をして残った１日、３１日には特別な会が催されるので楽しみです。３１日の会を「余一会」と呼ぶこともよく知られています。

　久しぶりに３１日が土曜日と重なった今年の七月、どこか面白そうな余一会はないかと探してみましたら、浅草の木馬亭で「浪曲四長老の会」というのが企画されていました。四人合わせて３６６歳！というキャッチコピーが付いています。チラシによれば木村若友（９９歳）、五月一朗（９１歳）、東家三楽（８９歳）、玉川桃太郎（８７歳）の四人、電卓で寄せてみると間違いなく３６６歳になります。出演者はこのほかに仕掛け人と見られる国友武春、若手代表と書かれた太田もも子が名を連ねています。混雑を見越して開演３０分前に五重塔裏の木馬亭へ行くと、入口の張り紙で「五月一朗、熱中症のため休演します」とされており、惜しくも３６６歳の一角が崩れました。今年の暑さです。ご高齢の方は特に堪えるだろうと思うと、他の出演者のことも気になりだしました。

　
　データ:

平成２２年７月３１日　　浅草・木馬亭

演芸	出演者	演目	上がり時刻
浪曲	国友武春	「若き日の大浦兼武」	13：00
浪曲	太田もも子	「牛若丸と弁慶」	13：25
浪曲	木村若友	「塩原孝子伝」	13：50
お仲入り			14：20
挨拶	澤　孝子	＊日本浪曲協会会長	14：33
浪曲	玉川桃太郎	「小金井小次郎　 　　　　　船橋大神宮」	14：38
浪曲	東家三楽	「忠臣蔵　 　　赤垣源蔵徳利の別れ」	15：08

入り　開演時　100％　　　　中入り時　満員　　　　終演時：満員　　終演　15：43

コメント：
　開口一番で登場したのは売れっ子の国友武春。五月一朗休演のいきさつをユーモラスに紹介した後、後の内務大臣大浦兼武が巡査をしていた若き日に岩倉具視から認められたエピソードを脂の乗った口演で聴かせました。続いて司会役でもある太田もも子の若々しい「牛若丸と弁慶」五條の橋の有名な出会い。に続いて長老の最初はこの日の最高齢、数えで百歳の木村若友が訥々とした中に滋味のある口調と節回しで、塩原太助が炭屋奉公時に別れていた両親とめぐり合い、浮世の義理から面会を拒絶される場面を切々と聴かせました。

　中入り後に澤孝子会長のご挨拶があり、玉川桃太郎は侠客モノの「小金井小次郎」。曲師は奥さんだそうで、息の合ったやりとりが楽しめました。この日の主任を務める東家三楽は「今日は忠臣蔵が出ていないので…」と断って、「忠臣蔵のどこをやるかはまだ決めていない」と笑わせて殿中刃傷の場面をしばらく演じてから、「徳利の別れ」を丁寧に聴かせてくれました。これがこの日の出色であったように思いました。

あとがき：
　木馬亭は現在都内で唯一の浪曲定席です。いろいろな機会に浪曲を聴くことはありますが、浪曲だけの会へ足を運ぶことはありませんでした。この日のお客さんはほとんどが常連客と見られ、舞台と客席のやりとりも和やかでした。五席の演目はすべて初めて聴くものでしたが、内容が分かりやすく、節付けも明快なことに感動しました。日頃、義太夫などの浄瑠璃を聴くことが多いのですが、初心の観客にとっては慣れるのに時間がかかります。浪曲の分かりやすさが多くのお客さんに支持されていることを実感し、演者それぞれの持ち味で楽しむことができました。

　これからもときどき木馬亭に浪曲を聴きに行こうと思います。。

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